フレームの辻褄

スチールフレームの意外なメリットとして、「フレームの精度が出しやすい」というものがある。

 

フレームを組み立てていく上で、ラグ、フィレット、TIGと様々な溶接方法があるが、いずれにしても作業後には熱収縮性による変形が起こってしまう。

これは治具で固めれば解決するものではなく、素材に熱を加える事でどうしても発生してしまう要素である。つまり溶接する箇所、範囲、時間が多くなればなるほどフレームには歪みが発生し、変形する。

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この溶接後の熱収縮を如何にコントロールするかがフレームビルドにおいての技術とノウハウとなっている。
寸法通りに材料を切り、寸法通りに治具をセットしただけで完成というものではない。

溶接前から熱収縮性を計算し、材料選びと加工作業を進め、溶接作業の要所で細かな芯取り(アライメント調整)を繰り返し、全ての溶接が完了した時、図面通りのものが出来上がるようにするのだ。

 

…と、なると、精度出しはむしろ難しいのでは?と思われるかもしれない。
カーボンなら型から出せばその形となるのだから。
(もちろんカーボンにも様々なノウハウはある前提で、だが。)

そうではないのだ。
スチールフレームの真の精度というのは、その先、「つじつま合わせ」にある。

鉄はその特性上、「曲げる」ことで変形させることが出来る。
しかもその強度を大きく落とすことなく。

もちろん限度を無視した無茶な調整をするとパイプにシワやクラックが発生する原因となる。

あくまで最後の1mm以下といった小さなズレに対して行うものだ。
しかしその1mmの中に全てが詰まっているといっても過言ではない。

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ロードバイクのリアエンドを例とすると、ハブ軸の左右位置が仮にいずれかの方向に1mmずれている場合、700 Cホイールの末端では2.6mmのズレとして現れてくる。
しかし角度で言えば26分(0.5度以下)。果たしてこれを使用者が目視で認識できるだろうか。

絶対的な数値としては小さいものの、700x23Cのタイヤに当てはめて考えると10%以上傾いてしまうことになる。

もちろんこの傾きは走行において大きなロスの発生と、安定感の欠如を招いてしまう。

 

エンド調整はチェーンステイ・シートステイの両方向・左右面に生じるずれを三次元的に修正している。
可能な限り本来の芯へ近づけることで、フレームによる伝達ロスも可能な限り軽減できるのだ。

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この作業は素材特性上カーボンやアルミには実質的に不可能だ。
無論、大量生産品ともなればなおさらである。
ハイエンドのカーボンフレームであっても、製造上発生してしまうその僅かなズレやバラつきは、「公差」として処理するしか無いのだから。

そこまで突き詰めた時、初めて「クロモリは精度が出しやすい」という言葉に意味が出てくる。

東洋フレームで製造しているフレームは、量産品もフルオーダー品も同じように、全て一本一本検査と修正を重ねて世に送り出されている。

東洋のバイクに乗ったことがある人には、きっとその時に不思議な走りの安定性を感じていただいただろう。
その答えがここにある。